# 2.ヒトと感覚
- 情動(emotion)とは? [脳科学辞典より](https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E6%83%85%E5%8B%95)
- 感覚刺激への評価に基づいて生ずる
1. 生理反応(自律神経系、免疫系など)
1. 行動反応(接近、回避、攻撃、表情、姿勢など)
1. 主観的情動体験 の3要素からなる。
- この情動は短期的に生じる原初的な感情で、比較的強い反応と定義されており、中長期的にゆるやかに持続する強度の弱い気分(mood)とは区別される。また情動と気分の両者を総称して感情と定義することもある。しかしながら、情動と感情との区別にかかわる厳密な定義はなく、研究領域や研究者間によってその扱いが異なる点に注意が必要である。
## 2.1 脳神経系と感覚・運動
### 2.1.1 脳神経系の解剖学的構造と神経生理学の基礎
- 脳は大脳・小脳・脳幹に大分される。
- 大脳は大脳半球と間脳(視床・視床下部)からなる。
- 大脳皮質の皮下組織には、大脳皮質と視床と脳幹の間を中継する大脳基底核や情動・意欲・記憶・自律神経活動に関わる辺縁系が含まれている。
- 中心溝を境界として、後部の頭頂葉と後頭葉が感覚入力を受容する領域であり、前部の前頭葉が運動指令を出
力する領域とみなすことができる。
- 中心溝の後部の回は一次体性感覚野と呼ばれ、体の各領域に対応した体性感覚(somatic sensation) の受容区分があり、対応する全身像(ホムンクルス)を皮質上に描くことができる。これと同様に、中心溝の前部の回には一次運動野があり、体の領域に対応した運動指令を体の筋肉に向かって発する。
- 一次体性感覚野の後部には二次体性感覚野があり、より高次の信号処理がなされながら、頭頂連合野において、後頭葉に投射される視覚情報や側頭葉に投射される聴覚情報などの他の感覚情報と連合され、総合的な解釈がなされる。
- 頭頂連合野は空間知覚(space perception) に重要。損傷があると、遠近・上下左右の識別が困難となる空間定位の障害や知っているはずの地理がわからなくなる地誌的障害が起きる。特に
右頭頂連合野の障害では、視野が正常であっても空間の左半分を無視する半側空間無視を起こす。
- 網膜から入った視覚情報は外側膝状体(がいそくしつじょうたい)を経由して後頭葉の一次体性視覚野(V1)に投射される。両眼視差(binocular disparity)に対応する左右眼球からの神経経路の差は一次体性視覚野(V1)まで保持され、これより後方で立体知覚に利用される。一次体性視覚野(V1)より後の視覚情報の処理は、分業的・分析的に高次処理がなされて行き、運動の方向・回転などに選択性を持つ領域や、物体の形態認識や顔の認識に重要な領域が存在する。
- 一次運動野はそれより前方の運動前野と補足運動野に連結しており、これらの領域で運動の企図・計画や最適化がなされている。
### 2.1.2 知覚・認知心理学の基礎
- 単眼手がかりとなるものには、絵画的手がかりや、経験的な物体の相対的大きさ、対象物の運動が距離によって異なることを使う運動視差、遠近で異なる水晶体厚さの調節などがある。
- 両眼手がかりには、輻輳(convergence)、両眼視差がある。
- 輻輳とは、両眼である点を凝視したとき寄り目になる状態を言い、両眼からの二つの視線と凝視点で作られる角(輻戟角)が凝視点までの距離が近づくにつれて大きくなることである。
- 両眼視差は同じ対象物から得られる両眼に対応する異なる画像のことであり、両眼に独立に提示したとき二つの画像が脳の中で融合して立体的に知覚される。
### 2.1.3 感覚と運動
- あまりに遅い運動(視角にして1-2'/s以下)や速すぎる運動(35deg/s以上)も知覚できない。
- 流れる雲間から覗く月は静止しているにもかかわらず、運動して見える。このような現象は誘導運動(induced motion)と言う。
- 列車の窓から隣の列車が動き出すとき自分が移動したものと錯覚することがあるが、このような知覚を自己運動感(ベクション、vection)と言う。
- 二つの離れた線分が短い時間(約60ms) で交互に点滅すると、それらが移動して見える場合がある。この現象は仮現運動(apparent motion)と言う。
## 2.2 視覚
### 2.2.1 視覚の受容器と神経系
- 視細胞で光エネルギーを電気信号に。
- 錐体は明所視
- 桿体は暗所視
- 錐体は光波長の吸収特性の異なる3種に分かれる(S=青,M=緑,L=赤)
- 可視放射 380nm~780nm(0.38μm~0.78μm)
網膜 ┬ 外側膝状体 ┬ 皮質の一次視覚野 ┬ <背側路>(位置・運動) ─ 頭頂連合野
└ 上丘 └ <腹側路>(形・色) ─ 側頭連合野
- 外側膝状体 = LGN : Lateral Geniculate Nucleus
- 一次視覚野で両眼の情報と両視野の情報が統合される。
- 網膜神経節細胞から上丘(superior colliculus)へ至る皮質下経路(subcortical pathway) もあり、眼球運動の制御などに関与している。
### 2.2.2 視覚の基本特性
- 同化は周囲の明るさと同じ方向に知覚が生じること。
- 対比は、周囲の明るさとの差を強調するように逆の知覚を生じること。
- 下に流れる滝をしばらく見ていて、隣の岩肌に眼を移せば、止まっているはずの岩肌が上って知覚される運動残効: motion aftereffect。
- 大きさの恒常性以外にも位置の恒常性や形の恒常性などさまざま。知覚が網膜情報そのものを写し取るのではなく外界の表象を創りあげている。
### 2.2.3 空間の知覚
- 奥行き手がかりは、
- 眼球運動性のもの(調節: accommodation、輻輳: convergence)
- 両眼性のもの(両眼視差: binocular disparity)
- 単眼性のもの(様々な絵画的手がかり)に分けられる
- 眼球運動性
- 調整は水晶体の厚みを制御する筋の状態が絶対距離の奥行き手がかりとなる。その効果はせいぜい1m程度までの距離内。奥行き手がかりとしてはそれほど強くない。
- 輻輳は、両眼で対象を注視する際に生じる両眼の内転・外転運動のことを指し、数
mの範囲の対象までの絶対距離の手がかりとなる。奥行き手がかりとしてはそれほど強くない。
- 両眼視差は、眼が左右に二つあることから生じる奥行きの違いによる像のズレであり、それだけで強力な奥行きを知覚させる。
- 頭部運動による視点位置の変化によ
って網膜像に生じるのが運動視差(motion parallax) 。
- 単眼性絵画的手がかりとしては、遮蔽(重なり: occlusion)、遠近法(perspective)、テクスチャ勾配(texture gradient)、速度勾配(velocity gradient)、キャストシャドー(cast shadow)、陰影などの奥行き手がかりがある。
- 陰影は物体内の奥行き形状の知覚に貢献。
- キャストシャドーは、物体と背景との相対的奥行き距離を知覚させる。
### 2.2.4 自己運動の知覚
- 網膜に投影された運動(オプティックフロー: optic flow) は、外界の物体・対象の運動からのみではなく、自已身体の運動・移動(self-motion, ego—motion)からも生じる。ゆえに、視覚は、網膜像の運動を、物体・対象の運動と自己の運動に分離・解釈する必要がある。
- 小さい領域のばらばらな運動や手前にある運動は物体・対象の運動として知覚される。ベクション(vection) は、このようにして視覚情報から生じる避けがたい自己運動感覚である。
- オプティックフローは、ベクションのみならず姿勢の揺れを誘発する(視覚誘導性身体動揺: visually-induced postural sway)。
- 視覚誘導性身体動揺は、ベクションよりも早く生じ、いくつか
の特性はベクションとは異なるため、ベクションの客観的指標とするには問題もある。
### 2.2.5 高次視覚
顔倒立効果の源は顔に対する過学習・親近性。
## 2.3 聴覚
### 2.3.1 聴覚系の構造
- 外耳と中耳は特定の周波数帯域を伝えやすい特性(伝達関数: transfer function) を持っており、これが聴覚系の周波数ごとの感度の違いの主要な規定因になっている。
- 内耳(inner ear) は、主に蝸牛(cochlea) と前庭(vestibular) および半規管である。
- 蝸牛はその外観のとおり、細長い管(蝸牛管)がカタツムリの殻のように巻かれた構造。
- 蝸牛管の中には、基底膜(basilar membrane) という膜があって蝸牛管を上下の階に分けている。
- この膜上に蝸牛管の入り口から頂に向かって長軸方向に並んだ多数の有毛細胞(hair cell) という器官によって中耳を伝わってきた振動(音情報)が神経信号に変換される。担当周波数は入口で高く、頂で低い。
- 成分の周波数は場所(どの有毛細胞か)と位相固定(神経パルスの時間感覚)で二重に符号化されていることになる。
- 神経信号に変換された音情報は、脳幹の神経核を中継し、枝分かれしながら側頭にある聴覚皮質に伝えられる。これらの聴覚の脳神経系の特徴は、中継される脳幹神経核の数が(視覚系と比べて)大変多いという点である。脳幹神経核は皮質に比べると一般に機能が特化されていることから、音情報をより多くの特徴に分解して並列して処理することで、高速化を図っていることがうかがえる。
### 2.3.3 聴覚による高さ、大きさ、音色、時間の知覚
- 音の高さの知覚(pitch) は、音が正弦波の場合、その周波数と一対ーで対応している。
- 正弦波の周波数を低い方から順に上げていくと、絶対的な高さの知覚も上がっていくと同時に、2 倍(オクターブ: octave) の関係にある周波数同士が等価に感じられ、オクターブ毎に繰り返される周期が知覚される。
- 絶対的な高さをハイト(height) 、後者のオクターブ毎に繰り返される相対的・周期的な高さの知覚をクロマ(chroma) 。この知覚の二重性は蝸牛における周波数符号化の二重性に起因。
- 基本音(fundamental tone) とその整数倍の周波数の成分である倍音(harmonics) から構成される複合音の高さの知覚は、正弦波によるものほど単純ではない。私たちに基本音周波数に対応する一つの高さの知覚をもたらし、しかも基本音に相当する成分が欠けていてもそれが可能である(失われた基本音:missing fundamental) 。
- 可聴域は最も広い場合でほぼ20Hzから20000 Hzであるが、感度は4000Hzをピークにしたバンドパス様の特性。
- 音色(timbre) は「同じ大きさと高さを持った2音が異なる音と判断されたときの、その相違に対応する聴覚の属性」(American Standard Association,1960) と定義される。異論もある。
- ホワイトノイズの無音部分検出によって測定された聴覚の時間解像度は一般に2-3ms程度と非常に高い。
- 検出や弁別を向上させるための時間積分があり、音の検出においては一般に200ms程度内の情報を積分することができる。
- 両耳間時間差(interaural time difference)
の検出においては、最大で6μs程度。
### 2.3.4 聴覚による空間知覚
- 両耳間差のみでも水平面上の音源位置は1゜程度の精度で弁別でき、両耳間差だけでも十分な空間解像度が得られる。
- 頭部や耳介を一種の「フィルタ」と見なして頭部伝達関数(Head Related Transfer Function : HRTF)と呼ぶ。
- 厳密に頭部伝達関数を測定できても、前方に定位させるのは比較的難しく、また前後の間違いも起こりやすい。
- 頭部伝達関数を畳み込む効果の一つに、ヘッドホンで受聴しても音が頭の外に定位することがある。
## 2.4 体制感覚・内臓感覚
### 2.4.1 体性感覚・内臓感覚の分類と神経機構
- 体性感覚(somatic sensation)・内臓感覚(visceral sensation)は、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、前庭感覚(5つ)以外の感覚を指す。
- 体性感覚は、皮膚で感じる表在性の皮膚感覚と骨格筋や腱、関節で感じる深部感覚に分類される。内臓感覚は、胃、腸、肝臓などの内臓で感じられる感覚。
- 4つの受容器
- 皮膚の触や圧、筋肉の伸張や緊張など体に加えられた機械的刺激に応答する受容器は機械受容器(rnechanoreceptor)。
- 体内外の温度に対し温冷などの感覚を引き起こす受容器は温度受容器(thermoreceptor)。
- pHなど化学的刺激に応答する受容器は化学受容器(chernoreceptor)。
- 強い機械的刺激、熱刺激、酸など体に傷害を引き起こす刺激に対して応答する受容器は侵害受容器(nociceptor)。
#### 触覚
- 表皮
- 自由神経終末
- マイスナー小体
- メルケル触盤
- 真皮
- ルフィニ終末
- 皮下組織
- パチニ小体
- 通常の触覚に関係する受容器は機械受容器。
##### 表)皮膚受容器単位の受容野と神経発射特性と受容器
| - | 小受容野、鮮明 | 大受容野、不鮮明 |
|--------|-------------------------------------|-------------------------------|
| 速順応 | FAⅠ/速度に/マイスナー小体 | FAⅡ/加速度に/パチニ小体 |
| 遅順応 | SAⅠ/変位+速度に/メルケル触盤 | SAⅡ/変位に/ルフィニ終末 |
- 有毛部皮膚にはマイスナー小体がないが、毛包受容器が存在する。
- 機械受容器の神経線維は有髄で比較的太いAβ線維。
- 皮膚に1-500Hz程度の正弦波振動刺激を提示して振動検出閾を測定すると、振動検出閾曲線が得られる。振動検出閾曲線は全体としては開いたUな
いしV字型をしており、振動周波数250 Hz付近に振幅約0.1μmの最低閾値を持つ。振動検出閾曲線のパターン決定に関しては、約40Hz付近を境として関与する機械受容単位が交代する。すなわち刺激周波数が40Hz以下ではFAIの神経発射閾が振動検出閾と重なり、FAIが振動検出閾曲線パターンを決定している。これに対し、40Hz以上ではFA IIの神経発射閾が振動検出閾と重なり、FAIIが振動検出閾曲線パターンを決定する。
#### 温度感覚
- 温覚受容器は自由神経終末、神経線維は無髄線維(C線維)である。40-45℃付近
でよく神経発射する。
- 冷覚受容器は自由神経終末、神経線維は細い有髄線維(Aδ線維)または無髄線維である。冷覚受容器は30℃付近でもっともよく神経発射する。
- 温度が45℃以上では感覚は熱痛覚、15℃以下では冷痛覚に移行するが、これらは痛覚の一種である。
- 温覚も冷覚も生じない中性判断の生じる温度を無感帯。31-36℃の範囲で生じる。
#### 痛覚
- 体性痛覚
- 表在性痛覚
- 皮膚の痛み
- 受容器は自由神経終末
- 神経繊維繊維は細い有髄線維(Aδ線維)と無髄線維(C線維)。
- 脊髄に入ると直ちにニューロンを乗り換え、脊髄中を上行し、視床を経て大脳へ至る
- 速い痛みの神経繊維は細い有髄線維(Aδ線維)
- 遅い痛みのの神経繊維は無髄線維(C線維)
- 深部痛覚
### 2.4.3 深部感覚
- 四肢相互の位置関係や動き、四肢に加わる力などを検出する。
- 筋肉、腱、関節に存在する固有受容器。
- 筋紡錘(muscle spindle) 、ゴルジ腱器官、関節受容器(3つ)。
- 筋紡錘は、錘内筋線維、感覚神経、運動神経の3要素からなり、全長6-8mmの紡錘形の構造をしている。筋紡錘は、その両端が筋紡錘と並行して走る筋線維(錘外筋線維)に付着した構造をしている。筋紡錘は、錘内筋の長さを調節することにより、錘外筋の収縮・伸張に合わせて自己の長さを変え、筋肉の収縮・伸張の程度や動き情報を知る。
- ゴルジ腱器官は、筋肉と腱の移行部に存在し、筋肉が収縮するときに特によく反応する。筋肉の伸張・収縮に対する筋紡錘と腱器官の反応は異なるので、相補って深部情報を精密に伝えることができる。
- 関節受容器には、特殊構造を持つパチニ小体、ゴルジ・マッツオニ小体、ルフィニ終末のほか多くの自由神経終末がある。
- 位置覚は、自分の四肢の相対的位置を知る感覚である。われわれは、眼を閉じていても自分の四肢がどのような位置にあるかがはっきりとわかる。
- 受容器は筋紡錘、腱器官、関節受容器。
- 運動覚は、自分の体を動かすとき、その動きの速さや方向を知る感覚である。
- 受容器は筋紡錘、腱器官、関節受容器。
- 力覚は、抵抗に逆らって関節位置を保持するための筋力を推定する感覚である。
- 受容器は筋紡錘、腱器官。
- 深部痛覚(deep pain) は、筋肉、骨、関節、結合組織などからの痛みである。
### 2.4.4 内臓感覚
- 内臓からの情報は内臓求心性線維により中枢に伝えられる。内臓求心性線維
は自律神経系(autonomic nervous system) に属し、自律神経遠心性線維である交感神経、副交感神経と同じ経路を走行し、脊髄を経て脳に情報を送る。
- 内臓受容器の基本的な役目が体内の恒常性の維持。
- 飢え、渇き、尿意、便意などの臓器
感覚は感覚としても意識にのぼる。
- 内臓痛覚(visceral pain)の情報を送ると考えられる自由神経終末の侵害受容器の密度は低く、内臓平滑筋を機械的に刺激しても痛みは引き起こさない。
しかし、内臓平滑筋が強く収縮すると激しい痛みを引き起こす。